ドッグフードのパッケージでよく見かける「総合栄養食」という表示。 これは、そのフードと水だけを与えることで、対象となる犬や猫の健康を維持できるよう栄養設計されたペットフードを指しています。 もちろん、メーカーが自由に「総合栄養食」と名乗れるわけではありません。日本では「ペットフードの表示に関する公正競争規約」によって、犬と猫それぞれについて、たんぱく質、脂質、必須アミノ酸、脂肪酸、ミネラル、ビタミンなどの栄養基準が定められています。この基準を満たすことが、「総合栄養食」と表示するための条件となっています。

日本の基準は?

現在、日本における総合栄養食の栄養基準は、アメリカのAAFCO(米国飼料検査官協会)が定めた栄養素の枠組みをもとにしています。 日本では以前からAAFCOの基準を取り入れており、2002年にAAFCO 1997年版が採用され、長らくそれを基準としてきました。その後、AAFCOが2016年に栄養素枠組みを大幅に改訂したことを受け、日本でもその内容を反映した基準へと改訂されました。

成犬用と子犬用で異なる基準

また、必要な栄養量は、犬の年齢や成長段階によって変わってきます。 AAFCOの栄養素の枠組みでも、大きく「成長・繁殖期」と「成犬維持期」に分けて基準が設定されています。 たとえば脂質の場合、AAFCO 2016では乾物換算で、

成長・繁殖期 8.5%以上 成犬維持期 5.5%以上

と異なる最低値が設定されています。 カルシウムやリンなども、成長期と維持期では必要量が異なります。 子犬、特に大型犬の子犬ではカルシウムの摂りすぎが、骨の発育に影響することもあるため、最低値だけでなく最大値も設定されています。

過ぎたるは及ばざるがごとし

栄養成分表を見ると、つい数字の大きいフードの方が優秀に見えることがあります。 しかし、栄養素は多ければ多いほど、良いというものではありません。 不足だけでなく、栄養素によっては、過剰摂取による健康被害が懸念されるものもあります。たとえば、先ほどの子犬にとってのカルシウムやビタミンDなどです。(「ビタミンDの過剰摂取」を参照)。栄養管理で大切なのは、その犬に必要な量を過不足なく摂ることであって、過剰に栄養を摂らせることは、かえって体への負担になることも珍しくありません。 また、AAFCOで「最大値」が設定されていないものは、いくら摂っても安全かというと、そうではありません。それらの栄養素は、十分な研究データがない、あるいは、実際の吸収率に大きな幅があるなど、犬種の異なる犬たちに対して、共通の上限値を設定しにくいといった背景があります。 いずれにせよ、「過ぎたるは及ばざるがごとし」は、人にとっても動物にとっても変わりありません。

総合栄養食はフード選びのスタートライン

このように、AAFCOの栄養基準にならった「総合栄養食」ですが、すべての商品が同じ成分量や栄養設計というわけではありません。実際のところ、似たり寄ったりに見えても、実際にはそうではなく、メーカーごとにかなり違うことが、本サイトの比較表でもお分かりいただけるかと思います。 というのも各メーカーは、基準を満たしたうえで、独自の考え方や設計方針に基づき、たんぱく質や脂質、カロリー、ミネラル、原材料などを組み立てているからです。 アクティブな犬を想定して高たんぱくに設計したもの、体重管理を意識して脂質を抑えたものなど、成分構成を見ることで、メーカーごとのクセや思想のようなものが見えてきます。 つまり、総合栄養食という表示は、毎日の主食として必要な栄養基準を満たしていることを確認するための、一つの目安ではありますが、実際の商品は、千差万別で、どれが正解とは一概に言えないことが、フード選びの難しいところです。

参考文献

迫田順哉「AAFCO2016年版における犬猫の栄養素プロファイル概要(前編)」『ペット栄養学会誌』19巻2号、2016年 迫田順哉「AAFCO2016年版における犬猫の栄養素プロファイル概要(後編)」『ペット栄養学会誌』20巻1号、2017年 迫田順哉「日本のペットフードにおける総合栄養食基準改訂と市場変化予測および今後の課題」『ペット栄養学会誌』25巻2号、2022年 坂根弘「イヌのライフステージと栄養」『ペット栄養学会誌』27巻2号、2024年