「犬の祖先はオオカミだから、肉中心の食事が自然」--グレインフリー(穀物不使用)フードや、生食が支持される場面で、よく見かける主張です。もっともらしく聞こえますが、これは犬という動物の成り立ちを、少し単純化しすぎているようです。

太古の昔から、犬は人のパートナー

現在確認されている最古の犬の遺伝的証拠は、約1万5,800年前(トルコ)のものです。これは農業が始まるよりずっと前、旧石器時代にあたります。日本でも、神奈川県の夏島貝塚から約9,400年前の骨が見つかっており、国内最古とされています。こうした発見から、犬はどんな家畜よりも早く、人間と共に暮らし始めた動物であることがわかります。すなわち、犬は、1万5千年以上という長い時間をかけて、人間のすぐ側で進化してきた動物であり、オオカミとは別の存在と捉えるべきでしょう。

人間の祖先が猿だからと言って、人と猿を同一には語れないことと同じです。

デンプンを消化する力を持つ犬

この進化の過程で起きた変化の一つが、デンプンの消化能力です。

2013年に発表された研究で、犬とオオカミの遺伝子が比較され、デンプンの分解に関わる「AMY2B」という遺伝子が、犬ではオオカミよりもかなり多くコピーされていることが分かりました。研究によって数値には幅がありますが、平均で7倍程度、犬種によっては数十倍という報告もあります。この遺伝子のコピー数が多いほど、膵臓で作られるアミラーゼ(デンプンを分解する消化酵素)の量も多くなり、デンプンをより効率よく消化できるようになります。

これは、犬が人間の農耕文化のそばで、穀物を含む残飯を食べて暮らしてきたことに対する適応と考えられています。つまり犬は、人間と一緒に暮らす中で、オオカミにはない「デンプンを消化する力」を獲得した動物なのです。

なお、生のデンプンは消化されにくい性質がありますが、加熱・加工されたデンプン(一般的なドッグフードに使われる状態)は、消化率が大きく上がることも分かっています。

犬は肉食? それとも雑食?

こうした事実に照らし合わせると、「犬の祖先はオオカミだから、穀物や豆類は不自然」という主張には、いくつか整理すべき点があります。

もちろん、強い胃酸や、タンパク質の消化・利用能力の高さなど犬の体が肉食動物由来の性質を色濃く残しているのも事実です。よって、「犬は完全に雑食化した」と単純化するのも、また別の極端さになってしまいます。大切なのは、実際にどんな消化能力を持っているかという、生理学的な事実に基づいて考えることだと思います。

これまでの記事で取り上げてきた大豆ミールやビートパルプへの誤解も、根っこをたどると、この「犬はオオカミだから」という発想とセットで語られることが多いようです。原材料そのものの性質と、こうした背景を分けて考えることが、フード選びの視点として役立つのではないかと思います。

参考文献